「一人で飲み屋に入ってみたい。でも、なんだか勇気が出ない」
そう思っている人は、たぶんあなたが想像している以上に多い。SNSで楽しそうな一人飲みの写真を見て憧れる一方で、いざ暖簾をくぐろうとすると足が止まる。常連ばかりだったらどうしよう、店主に話しかけられたら困る、そもそも一人で来て浮かないだろうか——。
その気持ち、よくわかる。でも先に結論を言うと、一人飲みは「ハードルが高そうに見えて、実は一番ハードルが低い飲み方」だ。誰にも気を使わず、自分のペースで、好きなものを好きなだけ食べて飲んで帰れる。この記事では、最初の一回を気持ちよく終えるためのコツを、入店前から会計まで順番に話していく。
なぜ一人飲みは「最初の一回」が一番難しいのか
正直に言えば、一人飲みの難所は店の中ではなく、店に入るまでの数メートルにある。一度カウンターに座って一杯目を口にしてしまえば、あとは驚くほど自然に時間が流れていく。緊張しているのは大抵あなただけで、周りの客は自分の酒とつまみに集中している。誰もあなたを見ていない。これは冷たい意味ではなく、「だから気楽でいい」という意味だ。
最初の一回さえ越えてしまえば、二回目以降は別物になる。だからこの記事の目的は、その最初の数メートルをいかに軽くするか、ということに尽きる。
デビューに向いている店、避けたほうがいい店
店選びで八割が決まると言ってもいい。最初の一軒は、雰囲気で選ぶより「構造」で選ぶのがおすすめだ。
向いているのは、まずカウンター席がある店。テーブルしかない店に一人で座ると間が持ちにくいが、カウンターなら一人客が前提になっていて居心地がいい。次に、明朗会計の店。壁や黒板に値段が書いてあったり、メニューに価格が明記されている店なら、会計でドキッとすることがない。そして、適度に賑わっている店。ガラガラすぎると店主と一対一になって緊張するし、満席すぎると居づらい。七割くらい埋まっている店が理想だ。
立ち飲み屋もデビューには最適だ。回転が速く、長居が前提でないぶん、ふらっと入ってさっと帰れる。チェーンの居酒屋や大衆酒場も、マニュアル接客で放っておいてくれるので意外と気楽。
逆に最初は避けたほうがいいのは、常連の濃いコミュニティが出来上がっている小さな店、予約必須の高級店、そして値段の書かれていない店。これらは慣れてから挑戦すればいい。
迷ったら、昼から開いている酒場を狙うのも手だ。明るい時間帯は客もまばらで雰囲気が柔らかく、一人客も多いので、最初のハードルがぐっと下がる。
入店のタイミングと、最初のひとこと
開店直後か、混雑のピークを外した時間がやりやすい。18時前後や、21時を過ぎてからの落ち着いた時間帯は、店員の余裕もあって対応が丁寧になる。
入り口で迷ったら、ドアを開けて「一人なんですけど、大丈夫ですか?」と聞けばそれで十分。これ以上の挨拶もテクニックもいらない。席に通されたら、まずは飲み物を頼む。「とりあえずビール」でもいいし、最初の一杯はサッと決まるものにしておくと、店員とのやり取りがスムーズになって自分も落ち着く。
注文は「少しずつ」が正解
一人飲みの醍醐味は、自分の腹具合と相談しながら少しずつ頼めることだ。最初から大皿を頼む必要はない。まずは一品。お通しが出る店なら、それを食べながらメニューをゆっくり眺めればいい。
頼み方のコツは、「飲み物一杯につき、つまみ一品くらい」のペースを意識すること。先に全部頼んでしまうと、料理が一気に来て手持ち無沙汰の逆になってしまう。一品食べ終わるころに次を頼む、というリズムが、結果的に一番間が持つ。
迷ったときは、店のおすすめや本日のメニュー、黒板に書いてある料理を選べば外しにくい。「おすすめどれですか?」のひとことは、実は店員との会話のきっかけとしても優秀だ。
手持ち無沙汰、どうする問題
一人飲みでみんなが一番気にするのが「間が持たないんじゃないか」という不安だ。でも実際に座ってみると、やることは案外多い。
料理をじっくり味わう。酒の温度や香りに集中する。店内の雰囲気や、壁に貼られた品書きを眺める。これだけでけっこう時間は過ぎる。それでも間が持たないと感じたら、スマホを見ても全く問題ない。ただし、ずっと画面に張り付いていると店の空気を味わいそびれるので、ほどほどに。
文庫本を一冊持っていくのも、一人飲み愛好家の定番だ。読みながら飲む時間は、家でも居酒屋でもない、独特の心地よさがある。
店主や常連に話しかけられたら
カウンターに座っていると、店主や隣の常連から話しかけられることがある。これを恐れて一人飲みをためらう人も多いが、構える必要はない。
話したい気分なら、ゆるく応じればいい。「このへんで飲むの初めてで」と正直に言えば、たいていは温かく接してくれる。一方で、そっとしておいてほしいときは、笑顔で短く返して、また料理に視線を戻せばいい。無理に会話を続ける義務はないし、それで失礼になることもない。大人同士、その距離感はちゃんと伝わる。
会話するもしないも自由——この選択権が自分にあるのが、一人飲みのいいところだ。
お金と安全、最低限のこと
最初は予算を決めておくと安心して飲める。「今日は三千円まで」と決めておけば、会計でうろたえることもない。値段が不安な店では、一品ごとの価格を確認しながら頼んでいい。それは恥ずかしいことではなく、むしろ賢い飲み方だ。
そして、これが一番大事かもしれないが——一人だと「自分にストップをかける人」がいない。話し相手がいないぶん、ハイペースになりがちな人もいる。水(チェイサー)を一緒に頼む、一杯ごとに少し間を空ける、終電や帰り道を先に決めておく。このあたりを意識しておくと、気持ちよく締めくくれる。深酒した帰り道は、誰かといるとき以上に注意が必要だ。
帰り際まで含めて、一人飲み
頃合いを見て「お会計お願いします」と言えば、デビュー完了だ。気に入った店なら、帰り際に「ごちそうさまでした、また来ます」と一声かけておくと、次に来たときがぐっと楽になる。二回目に「あ、この前の」と覚えてもらえたら、それはもう立派な常連への第一歩だ。
さいごに
一人飲みは、誰かと予定を合わせなくてもいい、気を使わなくてもいい、自分だけの小さな自由時間だ。仕事帰りにふらりと、休日の昼下がりにのんびりと——そのときどきの気分で、自分のためだけに過ごす一杯は、思っている以上に贅沢な時間になる。
最初の一軒は、肩の力を抜いて、構えすぎず。今日の帰り道、気になっていたあの店の暖簾を、ちょっとだけくぐってみてほしい。デビューは、案外あっけなく終わる。そして気づけば、また行きたくなっているはずだ。

